Childship










友人が、拾った子供と住むと言い出した時には、本人の生活能力から見ても性格から考えても、それはとうてい無理なことに思えた。子供の頃から知っている友人は、彼自身が子供みたいなものだった。子供が子供を育てるのは、誰だって無理だと思うだろう。

けれど、秋丸は反対しなかった。友人が、やると決めたら必ずやることを、それこそ秋丸は子供の頃から知っていた。中学の時からプロ野球選手を目指していた友人の姿は、今ではシーズンになれば週に一度はTVのナイター中継で見ることができる。

仕事帰りの恰好のまま、秋丸はマンションの一室のインターホンを鳴らした。部屋の中に響いている音は、ドアの外には聞こえない。返事を待たずに、合鍵を鍵穴にさし込んだ。

「お邪魔するよー」

暗い廊下の奥をうかがうように声をかけて、秋丸は玄関にちょこんと並んだ小さなスニーカーの隣に靴を脱いだ。照明のスイッチをつけながらリビングに入ると、絨毯の上にはひっくりかえった救急箱とその中身が散乱していた。机の上には、開いたままのタウンページ。それから、総合病院の名前の入った白い袋。

「あーあ、ひどいねぇ」

リビングの隅にカバンとスーパーの袋を置いて、秋丸はソファに投げ捨てられた電話の子機を手にとり、キッチンスペースとの間を仕切るカウンターの上の充電器へと戻した。

まあ、電話口での友人の慌てようを考えれば、この程度ならまだましな方かもしれない。

ルーキーのプレッシャーも二年目のジンクスもものともしない、マウンド上での自信に満ちたピッチング姿からは到底想像もつかないような、それは見事なうろたえあわてぶりで、友人は仕事中の秋丸の携帯を鳴らした。
薬箱その他の片付けは後にして、秋丸は寝室のドアをあけた。

「あきまる、さん」

そうっとドアを開けて隙間から覗きこむと、口もと近くまで布団に埋まった子供が潤んだ目を瞬いて、秋丸を呼んだ。

「起こしちゃってゴメンね。すぐご飯用意するから、そのままもうちょっとだけ起きててくれる?」

こくんと、真っ赤な顔が頷いた。

「おかゆとハンバーグ、どっちがいい?」

ハンバーグ、と即答して、辛そうな表情が少しだけ明るくなる。秋丸はにっこり笑って、「了解」と返した。スタジアムに向かう前にリンゴを食べさせたと言っていたから、それほど空腹ではないだろうけれど。

秋丸は急いで夕飯の支度にとりかかった。





























「Childship」より
★拾われっ子の小さいタカヤとプロ野球選手の元希さんの設定は某よつばさんからご了承を得てお借りしています。