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暖房のきいていない踊り場で、吐く息が白く変わる。二月は寒い季節だ。屋外の練習もひときわ厳しい。それでもいきたくないとは思わない。グランドへと向かう足は重くない。

「いーずーみー」

降ってきた声に、泉は階段をおりかけた足を止めた。思わず掴んだ手すりの冷たさに、あわてて手を離す。

真っ直ぐ見上げると、手すりの間の隙間から、見飽きた感のある顔が覗いていた。影になっていても、高さ二階分離れていても、目を細めるようにして見下ろす表情がわかった。
浜田はいつもそんな顔だ。泉を見る時は。

「今から練習?」

「そうだよ。急いでんだから、用があるなら早くしろよ」

邪険に言っても、浜田の表情は変わらない。立ち止まっていると、制服の袖から出た指先が寒さにかじかんだ。

早くしろよ、と、泉が再び言うよりもわずかに早く、「泉」と注意を向けるように浜田が名前を呼んだ。

だからなんだよ、と。見上げる先で手すりの間から伸ばされた手に、泉は開きかけた口を閉ざした。

「差し入れ」

と急いで言って、握った手が開く。反応しきれていなかった泉は慌てて、それでも危なげなく落ちてきた小さな何かをキャッチした。しっかりてのひらに握ったなにかの角があたる。小さくて、軽い。

「じゃな」

開いたてのひらを見下ろす泉の頭上で、いそいそと声は言い、逃げるように立ち去る足音が階段をあがっていった。

暖房のきいていない踊り場に、残ったのは泉とチロルチョコレート。今日は、2月14日。


「寒っ」


首をすくめて、ポケットに右手をつっこんだ。




























「泉ー、何個もらったー?」

「本命、いっこ」

練習前の部室でクラスの女子からもらったチョコの数を比べていた部員たちは、泉の返事に「ええー」とか「告白!?」とか一時騒然となった。

きゃあきゃあうるさいチームメイトたちに背中を向けて練習着に着替えながら、自分もたいがいサムイかも、と。

泉はちょっとだけ恥かしくなって、うつむいた。






そんな、2月14日のお話。




































ハマイズは可愛くてよかです。