練習の休憩中に、同じ木陰の中に入って休んでいる後輩の一人がもう一方の頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜている。「だから、呂佳さんに誘われねェんだよ」と、意地悪くからかう声は嬉しそうだ。構われている方は、長い腕に押さえつけられるように首を竦めて涙目で睨みあげている。
準太の利央いじめは、中学の時から変わらない。
その内、「りおー」と1年連中に呼ばれて、利央はグランドに走って行った。
走り去ってゆく後姿を見送る横顔が、所在のなくなった右手を膝の上に落とした。
「準太はアレだなァ」
と、心の中で呟いたつもりが口に出ていた。横顔が向き直り、和己は声に出してしまったことに気づいた。
「なんスか?」
「いや、なんでもない……」
和己は慌てて手を振ったが、何かに勘付いたように準太は眉を寄せた。さっと、頬が上気した。
「和サン……、なんスか……?」
強い口調で重ねて問われて、和己は「あー」と唸った。どうにも後輩に弱いのは、同期や先輩に指摘されなくても自覚している。しめしがつかないといえばつかないが、別に怖がられたいわけでも尊敬されたいわけでもないし、むしろ利央のような上下関係に無頓着なヤツがのびのびできるんならそれでいいと思うし。
つまり、うっかりもらした失言を「なんでもない」とつっぱねることが、良くも悪くも和己にはできなかった。
「いやー、準太は好きな子にはいじわるしちまうってヤツだよな、と思ってなァ」
言っててなんだか照れくさくなって、和己は誤魔化すように帽子の際があたる辺りを指先で掻いた。
グランドへと逸らした視界のすみで、長身のピッチャーがみるみる顔を赤くして両手を芝生についた。両肩が、がっくりと下がった。
「そ……そう見えますか……?」
「いやァ、まあなあ」
1年坊主の中で、準太がいじめる相手は利央しかいなかった。わかりやすいと言えばわかりやすいんだが。
「あー」とか「うー」とか唸りながら、準太は顔を上げた。和己の視界のすみで、準太は片手で顔を被うようにして、グランドに視線を向けた。多分、見ているのは和己と同じものだった。遠くグランドの端にいても、きらきら光る髪でどこにいるのかすぐわかる。
耳まで真っ赤になった横顔が、雰囲気を変えた。すっと目が細くなり、なんともいい難い表情が浮かぶ。
利央をからかう合間や、離れてその姿に目を向ける時に、準太が時折見せるその表情は、中等部の頃にはなかったものだ。
「わかりやすいっスかね」
バツの悪そうな声と表情が、和己に尋ねる。
「そうでもねェな。ありゃ、わかってねェだろ」
利央にはバレてないだろうと、フォローするように和己は答えた。「はァ」と、ため息をつくように息を吐き出して、準太はまた肩を落とした。
「あいつ、アホっスから」
それがありがたいのかそうじゃないのか、呟く準太の横顔はやっぱりあの表情を浮かべていた。
誰かを見つめて、そんな表情を浮かべるそれが和己はなんだか羨ましいような気がして思わず空を仰いだ。
野球ばっかりで、誰かを好きになることにも縁がない学生生活を送ってきてしまったけれど。
なんだか、恋がしてみたいなァ、と。
青空を流れる雲を見上げていると、思ってみたりしなかったりもなかった。
■準サンの方が恋の自覚が先だったらいいなと思うんですよ。恋する準サンは可愛いと思うんですよ。しかも不本意なぐらいに思っていてほしいです。これは利央×準なつもりです…が、準利央でもまったく問題ないかと…思います…
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