ぱらぱらと聞こえてきた拍手の音に、利央はびっくりして振り返った。
「準サ…ン」
「うまいじゃん」
「どうも」
ぺこりと、頭を下げる。音楽室の入口に立っていた相手は、それを合図にピアノの側へと近づいた。
「意外な特技」
「賛美歌だけっス。ばあちゃんに、おそわって」
「たいしたもんだって」
声はいつものようなからかう調子はなしにそう言って、人差し指が白い鍵盤の上を叩いた。
ポーン ポーン
同じ音を鳴らす鍵盤を、指先を、利央は口をつぐんでじっと見下ろした。
この手が投げる変化球が、利央は好きだった。
誰のバッドも届かない、シンカー。
「掃除当番?」
「うっス」
音楽室は利央のクラスの割り当てだった。今日から、1週間。
「さっきの、なんてやつ?」
「礼拝で歌わされたことあるでしょ」
「覚えてねェ」
「『荒野の果てに』」
「ふーん」と、興味なさそうに返して、指が鍵盤から離れた。
音の消えた教室に、グラウンドから生徒たちの声が遠く聞こえた。サッカー部だろうか。
「明日は、歌つきな」
利央は目を瞬いた。鍵盤から顔をあげると、準太が口の端を上げて見下ろしていた。
利央をいじめて遊んでいる時に、たまに見せる顔だった。
甘ったるい、顔。
嫌いじゃない、けど。
「先輩命令な」
利央の沈黙をどうとったのか、準太は楽しそうにそう言った。
別に、嫌じゃないから、いいけど。
「部活行くぞ」と言って、準太はドアに向かった。
利央は椅子から立ち上がって鍵盤にフタをして、先に行く背を追いかけた。
■web拍手お礼の準×利央か、利央×準です。
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